成長するネットワークのモデル

複雑なネットワークの科学とは,社会ネットワーク分析など社会科学分野では古くから注目されていたネットワークの構造的特徴や発生メカニズムを分析・開明することを目的とした学問である.従来のネットワーク分析との大きな違いは,計算機の向上などを受けて,従来は困難であった大規模なネットワークを対象とした現象の分析や視覚化,動的な要因も含めたモデル化などが試みられているおり,それは,計算機科学の分野以外でも広く研究されている.

我々は,複雑なネットワークの分野の中でも,特に,様々な系がもつ構造(ネットワーク)に着目し,そのネットワークから創発される現象の分析や,ネットワークが形成される過程の解明が試みている.さらに,こでまは,系の上での現象は個々の要素間での相互作用が注目されていたエージェントの協調行動などを,ネットワークの視点から,相互作用がどのような構造であるのかを分析することで,構造の特徴とその系の上での行動の結果として創発される現象との関係性に注目していきたいと考えている.


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複雑系ネットワークの研究とは

中心性に基づくネットワーク形成

ネットワーク形成の合理性の推定

篠田孝祐(北陸先端大, 防衛大), 松尾豊(産総研), 中島秀之(はこだて未来大)

従来のモデルにて,エージェントが中心性を高めることを目的としてネットワークを形成することで,特徴的な構造をもつネットワークが形成されることが明らかになっている.このモデルを,各中心性を異なる属性をもつ指標と見なし,エージェントがネットワークの形成に参画する際の効用を複数の中心性によって表わすように拡張することで,既存のネットワーク構造から,そのネットワークに内在するエージェントの合理性の基準を推定することを試みる.

空間ネットワークの分析

研究者─学会の2部グラフの抽出

多層ネットワークモデルの構築

篠田孝祐(産総研)

一般的に,社会ネットワークの分析では,特定の集団,もしくは関係性からなるネットワークを対象として抽出・分析が行われている.しかしながら,Webのリンク構造,人間関係,交通網など実在する”社会ネットワーク”は,必ずしも単一の関係性からなっているわけでは無く,また,個々の関係性によって形成されるネットワークの構造的特徴が異なるのでは無いかと考える.具体的には,人間関係であれば,パブリックな関係もあればプライベートな関係によって,また会話やメールのようなコミュニケーションツールの違いによっても各々一つのネットワークとしての成長を見せ,それぞれ異なる成長をみせるているのではないだろうか.そして,それら複数のネットワークは人間関係という一つのネットワークの中で個々の成長が互いに影響をあたえあってネットワークとして形成されると考えている.つまり,社会ネットワークは一つのネットワークとして分析するのではなく多層なネットワークとして分析すべきではないかというのがこの研究の主張点となる.

本研究を行ううえで必要な技術は,以下の2点と考える.

  • 単一の関係性からなるネットワークの成長モデル
  • ネットワーク間の影響を考慮したメタネットワークモデル

また,この研究の応用範囲としては以下の分野が考えられる.

  • 公共交通機関の交通網のダイナミックス
  • 観光・防犯などを考慮したレンタサイクルシステム設計
  • オンラインゲーム内でのコミュニティバランスのデザイン
  • フランチャイズ展開の戦略決定のためのシミュレーション

なお,下記の資料は,2009年度のさきがけに本研究テーマで応募した書類である.とりあえず面接には呼んでいただけたが,必ずしも評価がよかったとはいえず,次年度に向けては,テーマの大幅な見直しの必要があるため,ここに公開する.

マルチエージェントシミュレーション

群集シミュレーション

サッカーシミュレーション

災害救助シミュレーション

篠田孝祐(北陸先端大・産総研), 野田五十樹, 太田正幸(産総研)

災害状況を想定した環境下を再現することを目的としたシミュレータが災害救助シミュレータである.そのシミュレータを用いて,効率的な災害時の救助活動の発見や制度設計,都市環境の評価などを行うことを目的としている.

我々は,当該シミュレータを用いるに辺り,適切な実験環境を提供するための仕組みの一つとして,エージェント群の振る舞いをシナリオとして表現する環境の整備を試みた.これは,社会シミュレーションでは,特定の目的を実験するには,様々な環境条件の設定が必要となるが,災害救助の対象者となる一般市民の様に,その中にエージェントがどのように振る舞うかも含まれる.だが,その振る舞いは多様であると同時に,振る舞いの設計自身が,結果を大きく左右する可能性もある.そこで本研究では,

  • 容易な記述による行動設計
  • 単純な仕組みよる行動の組み替え
を目的とした,並列シナリオによる行動記述を提案した.

  • Posit: 並列シナリオ記述
  • R_Civilian: RoboCupRescue用市民エージェント

ネットワーク生成シミュレーション

上記の成長するネットワークのモデルのシミュレーションなどに利用.実装には C++, boost, ruby などのプログラミング言語・ライブラリを使用している.

ソーシャルタギング

When2.0的EventTagging

災害救助支援

デマンドバス

研究のツール

graphviz: ネットワーク描画ツール

boost: C++ライブラリ

こちらも主にネットワークデータの処理に使用している.我々が導入した時点ではなかった betweenness の計算もライブラリとして提供されている.すでに実装したあとだったので使ってはいないけど,比較的高速されるアルゴリズムで実装されているようで,edge_betweennessの計算なども可能.
その他にも,多数のライブラリをそろえているライブラリ群である.

Ruby

おもに,プログラムに与えるパラメータの自動化などに利用.そのほか,簡単なクローラー作成などにも利用している.

JavaScript

いわゆる Ajax 的なアプリ構築や,firefox の拡張機能作成のために使用.

Repast

Agent Simulation Toolkit

関連研究のサーベイ

更新履歴
  • 2008.03.16: 国際会議ネットワークを追加
  • 2008.02.05: 群集行動シミュレーションを追加
  • 2007.11.20: R_Civilianを追加
  • 2007.07.01: 関連研究のサーベイの追加
  • 2007.07.01: 2部グラフの抽出を追加
  • 2007.04.29: 暫定版公開